第45号 法思想史
法思想史
法思想史と言えばギリシャのソフィストから始まるんでしょうね。ポリスの青年を腐敗させたとして告訴され、陪審員の心証を悪くする非妥協的な弁明をして死刑判決を受け、「大切にすべきは、ただ生きることではなく、善く生きることだ」といって毒杯を仰いだソクラテスが有名ですね。問題としては、悪法も法か。悪法は法でないか。
次は、正義は変化するのかです。正義には自然的なものと人為的なものがあるとしたアリ ストテレスが有名ですね。
そして、ローマ時代では、取引は、握手(物権)と約束(債権)という二つの行為で成立するとされています。すべては形式が大事だということですね。
ストア派のキケロは、「真の法則は正しい理性であり、自然に合致し、普遍的で永久不変である。」って言っています。ヨーロッパの民は普遍とか統一が好き見たいですね。
また、ローマ法が万民法となり普遍化され、それが自然法として全人類に共通の法とした理論を展開しだしました。現在でもこのローマ法が浸透した地域が大陸法系となり、入ってこなかった地域が英米法系となっています。この違いを一言で言うと裁判所と国会のどちらを信じることができるかですね。
中世になって自然法がキリスト教と結合され、トマス•アクィナスによって集大成され、 「法とは人間の究極目標である共通善に向かう理性による秩序にほかならない」とされました。
その後、ローマ教会の変革運動があり、マキャベリなどの絶対主義法思想が生まれ、合理主義•個人主義の近代自然法が登場することとなります。
ホッブズは、リバイアサンによって、「個人のもっている自然権(各人が彼自身の自然、 つまり自己の生命を維持するために彼の欲するままに自己の力を用いるという各人の自由)を規制するものが自然法で、権利と法が区分され権利が法に先行する」としました。
イギリスでは早くから自然法論から功利主義(最大多数の最大幸福)、法実証主義へ移行しました。
ベンサムは、「在る法」を対象とする説明的法理学と「在るべき法」を対象とする批判的法理学を区分しました。さらに、法とは主権者命令説という法実証主義的法観念 (法は、自然法のように理性によって発見されるものではなく、人間の意志の産物である。) を提示しました。
その後、オースチンによって継承され、法実証主義により「在るべき法」への関心は薄れていき、分析法学(法概念の分析など)へと進んでいくこととなります。
ドイツでは、ローマ法を継受し、ローマ法を書かれた理性として尊重すると同時に、各地に固有の慣習法にも法源としての地位を与えました。その後、慣習法が拡大されローマ法の適用は縮小されています。
課題は、法と道徳は統合されるべきか否かです。自然法論者たちは、法典編纂の基礎理論提供し、理性法を形式的原理としながら、実質的には固有法と継受法の調和的構成をはかりました。自然法の経験主義から理想主義への転回をした。カントの登場を待つことになります。
カントは、人間の尊厳は意志の自由にあるとしました。根本原理は「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として通用しうるごとく行為せよ」としたのです。そして、「道徳とは異なり、法は行為が外面的に法則に合致していることで満足する。」として、法と道徳を区分したのです。
ヘーゲルは、現実は絶対者の自己実現であり、絶対者とは精神であり理性的であるので、その現実は理性的であるとしました。言い換えると、「絶対者の本質である自由な意志の現存が法である。」としました。これでは、また法と道徳は一致することになります。
19世紀(産業革命)のイギリスにおいては、経験主義的•実証主義的思考の台頭があります。メインは、法的諸制度や諸概念の歴史的発展の継続性を仮定し、その背後にある普遍的な法則を発見しようとしました。つまり、分析的方法に劣らず歴史的方法が必要であるとし たのです。
次に、ドイツ近代法学としての歴史法学です。課題は、統一法典の制定が必要か否かです。 結果は、「まず必要なことは、民族の共通の確信から法律学を整備し、それによって法形成 の確実な基盤を構築すること」として、立法者の恣意的な立法に反対し、また、歴史法学派 の創始者サヴェニーはローマ法に帰ろうとしました。
ヴィントシャイトは、パンデクテン法学において概念法学を完成しました。彼によると「自然法の夢はすでにみつくされた」として法と道徳を分離する法実証主義を表明しました。
イエーリングは、もともと概念法学の論客であったのですが、当時、「法の目的は問題とならない」と考えていたのですが、「生活が概念のためにあるのではなく、概念が生活のためにあること、論理ではなく生活の要求することが生じるはずである」として概念法学から 決別しました。この根本思想は、「目的こそが法全体の創造者である」ということです。目的法学、つまり、法学の科学化です。
現代に入ります。まずはマルクス主義ですかね。ベースはヘーゲル法哲学への批判で、国家と市民が逆転しています。つまり、国家は市民社会の自己疎外の形態と考え、そして市民社会と国家の分裂は、私的所有の支配による市民社会の内部矛盾によって作り出されたと考えました。
そしてこの分裂のあと、私的所有のアウフヘーベンを通じて克服されて真の国家と民主制が実現するとしたのです。(ヘーゲルでは、国家はその現実に内在する客観的精神であり本質でしたね。)マルクス主義では、国家は悪いことをする前提となっているようです。
オーストリアのメンガーは、法は慣習から成立し、強者の利益は権利となり、恒常化される。したがって、法は勢力関係を確実に維持するための道具であると考えました。そのため、 法秩序の改造を任務とする立法的政策法学、特に法社会学が重要であると考えました。
次にドイツでも、概念法学(本質や普遍的真理を追究)への批判が始まりました。
キルヒマンは、実務家として、「立法者が三つの言葉を訂正すれば、すべての文献が反故になってしまう」と指摘しました。(新しい法律を作ったり、既存の法律を廃止したり改正したりすれば論争は意味がなくなってしまうということ)
次にフランスです。フランスでは概念法学を註釈学派と呼んでいました。これは、法典の条文を絶対視し法律を唯一の法源と考え、「法学の目的は条文の意味を明らかにし、法の概 念規定とその論理構成によって技術的論理的体系を作り上げることと」されました。ドウモロンブが有名です。しかし、このような解釈態度が社会の構造変化に対応できなくなったとして批判運動が始まります。
オーストリアのエールリッヒは、法の欠缺が存在する場合には、法曹の利益衡量・規範創 造にゆだねられるとし、法曹は「正しい」と考えられる意味を与えて解決しなければならないとし、「自由な裁判」を認めました。
なお、ドイツのカントロビッツは、自由法は、形式法に必然的に伴う欠缺がある場合だけ補充的効力をもつにすぎず、形式法が自由法に優先されることに変わりがないとしました。
「社会学なき解釈学は空虚であり、解釈学なき社会学は盲目である」と指摘しています。
現代といえは、アメリカのプラグマティズムです。アメリカの法思想の特徴は、自然法思想と裁判過程への強い関心です。裁判所が法の形成・発展に議会以上の重要な役割を果たしています。
ホームズは「法の生命は、論理ではなくて経験であった」、「判決の真の理由は、政策や社会的利益の考慮であり、解決が単に論理とか何人も争わない法の一般命題によって達成されると考えるのは無益である」と考えました。
つまり、「われわれの研究の対象は、予測、すなわち裁判機構を通じて公権力がどのような仕方で影響を及ぼすかの予測である」としました。
パウンドの社会学的法学(プラグマティズム法学)は、概念・原理•理論・論理を道具としての本来の地位にもどすだけでなく、法そのものをも社会的目的をもつ道具としてのみ、 目的―効果の考慮を重視する考えです。
つまり、「法とは、社会統制の手段•技術であり、相対立する社会的諸利益を、その犠牲• 摩擦•浪費を最小限にし、その確保•実現を最大限にするように調整することを任務とするもの」と考えています。
ヨーロッパに戻りまして、ウィーンではケルゼンが登場します。彼の理論は基本的に法実証主義に属し、新カント主義の哲学を駆使して、新しい時代にも適用しうる法実証主義の理論を構築しました。ケルゼンの純粋法学とは、まず規範的方法と自然科学的方法(法の社会学的心理学的考察)を区分し、さらに、規範的方法から倫理的•政治的方法を区分して純粋であろうとしたものです。(では、道徳的観念の欠如は本人の責任か否か。どう思いますか。)
相対主義の法哲学で有名なラートブルフは、究極の当為命題(あるべきもの:真善美、価値観・世界観など)は立証不可能であり、認識することはできず、ただ確信することができるにすぎないとしました。ナチズムを反省して、やっぱり悪法は法でないと考えることとしました。(ナチスの制定法が問題になった場合には、たとえそれが歴然と「不正な」制定法であったとしても、裁判官は従わなければならなかったから。)
現代、カウフマンは、あるべき「本質」が「現存」するときに実在があらわれるとしました。そうすると現実の事物は本質と現存との即応ないし合一そのものであることになります。本質は「事物よりも前に」でもなく「事物は後に」でもなく、「事物の中に」あります。
そうすると自然法論は法の本質を一面的に優先し、法実証主義は法の現存を優先している こととなります。また、法は両極の即応として把握されなければならないと考えています。
次は、アメリカにおけるリアリズム法学です。これは、裁判判決の予測が可能かどうか、 裁判過程には法的ルールや論理はどの程度の役割を果たしているかということを問題としています。(いわば真実はどうでもいい。)
特徴は、裁判過程には法的ルールや論理が大きな役割を果たしているという伝統的考え方とか、事実審裁判所では事実が客観的に認定されているという伝統的考え方に対して、懐疑の目を向けた点です。彼らのなかには、裁判過程の研究に統計学や心理学の方法を導入したりしました。
そして、リアリズム法学は、司法審査権の行使の仕方をめぐる根本的問題の再検討を促しました。さらに、リアリズム法学には、司法積極主義と司法消極主義(裁判所が法律を積極的に違憲か否かを判断するべきか否か)かのみではなく、司法的立法そのものの正当化は何か、司法的立法はどのように方向づければいいかといった法的推論の問題が含まれているということです。
最後に白熱の教室で有名になったマイケルサンデルの理論であるロールズの正義論について、自由か平等かでは平等のほうが優先するようです。ロールズは、「人々の出自や才能などの社会的•自然的偶然によって、社会経済的利益に分配の決定が左右されることが道徳的観点からみて恣意的であるとみて、個々人の才能•能力•技能などを、一つの社会的共同資産とみなして、社会の最も不利な状況にある人々の利益のために利用すべきである」としています。
また、ロールズの「正義の2原理」は、各人に基本的諸自由を平等に保障すべしとする原理の優先的地位が強調される一方、他方では、社会の最も不利な状況にある人々の利益の最大化に必要な社会経済的不平等を正当化する「格差原理」が組み込まれ、自由と平等との調和的均衡点が示されています。
そうすると、道徳判断について、事実判断と同じような仕方で真偽を語ることができるのか否か。道徳を序列化できるのかという問題が生じないかと考えますがいかがか。
たとえば、身体障害者で高所得の人がその所得を還元するのを当然として、健常者で低所得の人よりも優先的に身体障害者で低所得の人に還元することとなるのか。なにか資産概念と利益の損益概念がごっちゃになっているように思えるがいかがか。
ロールズは、「個々人の才能•能力•技能などを、一つの社会的共同資産とみなして」と言っているがこれは、運動能力や芸術能力を資産とみなしてこれにより稼得した利益の配分を前提にしているようですが、各個人はそれぞれもっと違った能力を有していることもあります。ではそれぞれが有しているその違った能力(社会的に価値のない能力を含む)で稼いだ利益も同じようにその能力がない者に配分すると考えるのでしょうか。
詐欺能力•風 俗能力•単なる異型などを含まないとすると、ここですでに能力の性質を考慮に入れているのではないか。(野球のスターとオレオレ詐欺師と同じか。)
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