第231号 証券アナリスト 株式ポートフォリオ戦略
(マルコウィッツのポートフォリオ選択論)
ポートフォリオを構成することによって、個別資産のみの投資からは得られないポートフォリオ効果が期待できる。このポートフォリオ効果とは、ポートフォリオに含まれる個別資産の相関係数が小さいほど分散効果により、ポートフォリオのリスク(標準偏差)は小さくなる。これは構成銘柄の共分散効果によるものである。
例えば、相関係数が-1の場合、ポートフォリオのリスク(標準偏差)をゼロにする組み合わせがある。リスク資産からなるポートフォリオの効率的フロンティアは、無リスク資産の導入によって、安全資産の利子率での貸付け及び借入が可能であれば、安全資産の利子率からリスク資産からなるポートフォリオの効率的フロンティアに引いた接線(資本市場線)が、新たな効率的フロンティアとなる。より効率的な投資機会が得られる。
安全資産の導入によって、新たな効率的フロンティア上のより効率的なポートフォリオが選択される。このとき、リスク資産からなるポートフォリオとして、投資家の効用とは独立に一意に接点ポートフォリオが決まる。この決定と、投資家によるリスク資産と安全資産の組み合わせ比率の決定は分離して定義される。これを分離定理という。
ベータ値=市場ポートフォリオの割合×市場ポートフォリオ値+(1-市場ポートフォリオの割合)×安全資産値=市場ポートフォリオの割合×1+(1-市場ポートフォリオの割合)×0
市場ポートフォリオのリスク・プレミアム=市場ポートフォリオの期待収益率-安全資産の利子率
(効率的市場仮説)
配当割引モデルによれば、株式の本質的価値は将来の配当流列によって決定される。したがって、企業の配当の公表は株価にとって重要な要素と考えられる。
株価の変動を見ると公表日の5日ほど前から株価が動意づいている。これは、1 優れた分析能力を持つ投資家が、公表日以前に配当情報を察知していたと考えられる。2 インサイダー情報を利用する投資家がいたと考えられる。3 市場の売買動向から、多くの投資家が1、2などの投資家に追随したと考えられる。
公表日以降の株価の変動について、配当情報は、公表日に概ね株価に反映されたと考えられるが、増配のケースでは公表日から10日間も株価が上昇している。また、無配転落株についても、緩やかな下降傾向が観察される。
市場は効率的であるという意見からは、配当情報は公表日に概ね株価に反映されたと考えられる。公表後に一部の株価が変動しているのは、サンプルの取り方による影響と考えられる。
市場は非効率的であるという意見からは、復配銘柄や無配当転落銘柄は公表日以降も下降または上昇を続けており、市場が非効率であることを示している。
(マーケット・モデルとCAPM)
ポートフォリオの分散は、市場関連リスク(システマチック・リスク)と証券固有のリスク(非システマティック・リスク)に分解できる。
σp2=βp2σm2+σep2
ここで、βp=σpm(共分散)/σm2(市場の分散)
つまり、βは、市場のリスクに対するポートの共分散の大きさ
そうすると、
1=βp2σm2/σp2+σep2/σp2
であり、βp=σpm/σm2を代入すると
1=(σpm/σm2)2×σm2/σp2+σep2/σp2
決定係数R2=ρpm2(相関係数)なので
相関係数ρpm=σpm(共分散)/(σm・σp)なので
1=R2+σep2/σp2
つまり、総リスクに占める市場関連リスクの割合は、決定係数である。
資本市場線は、安全資産の利子率と市場ポートフォリオを結んだ直線であるから、資本市場線の傾きは、ポートフォリオの期待収益率から安全資産の期待収益率を差し引いた数字をβの数字で割ったものであるから、1で割ったものである。
そうすると、CPAMが成立するときには、ポートフォリオのβがゼロとなるように、割安なポート買い、割高なポートを売ることにより組み入れ比率を調整することで資本市場線上に来ることができる。
(年金の株式運用)
A基金は、TOPIXを構成するすべての業種にわたって幅広く分散投資するという制約のもとで、TOPIXを上回る超過収益を稼ぐことを考えた。ポートフォリオ・マネージャーのBさんは、上記制約条件のもとでプラスのアクティブ・リターンを稼ぐには、ポートフォリオの業種構成比を決定し、銘柄選択を行うトップダウン・アプローチがよいと判断した。
その手順としては、1マクロ経済予測をし、2当該予測のもとで、各業種別のパフォーマンスを予測して業種別配分を行い、業種ごとに、よりよいリスク・リターンを得られる銘柄を選定する。
トップダウン・アプローチは、マクロ経済予測に従ってセクター・アロケーションや銘柄選択を行うため、スポンサーに説明しやすく、また理解を得ることが容易であるという長所があるが、マクロ経済の状況はすでに市場に織り込まれているため、そこからアクティブ・アロケーションを得ることは容易でないという短所がある。
ブルームの調整ベータについて、これは、時間の経過とともにヒストリカル・ベータは、全ての株式ベータの平均である1.0に回帰する傾向があるものと考えている。これにより、投資収益の期待値とCAPMによる投資収益の理論値との差であるαを算出し、投資収益率の期待値がCAPMの理論値を上回るプラスのαである株式は割高であると考えられる。逆に、マイナスのαの場合は割安であると考えられる。
(APTとマルチ・ファクター・モデル)
ある証券の期待収益率は、各ファクターのリスク・プレミアムに感応度を乗じたものの合計に安全資産の期待収益率を加えたものである。そして各ファクターのリスク・プレミアムは、各ファクターの期待値から安全資産の期待収益率を控除したものである。
そうすると、証券Aから証券Cによって算出された各ファクターの期待値から証券Dの期待収益率を算出した数値が実際の期待収益率よりも小さいとき、市場で証券D購入し、証券Dと同じファクター感応度を持つポートフォリオを売却すれば、裁定利益が得られる。
B社は、3つの投資顧問会社に特金運用を委託している。これらのファンドのパフォーマンス測定にシャープの尺度とAPTを使用している。シャープの尺度は、収益率から安全資産利子率を控除したものを標準偏差で除したものである。
APTによる評価は、収益率から、各ファクターのリスク・プレミアムにファクター感動を乗じた合計に安全資産利子率を加算したものを控除した率によることとなる。
そうすると、シャープの尺度による評価とAPTによる評価が異なることとがある。APTによる評価については、市場均衡を前提にしていることから、非システマティック・リスクが大きいアクティブ・ポートフォリオを評価するには適当ではない。評価にあたっては、総リスクに対するリスク・プレミアムの割合で評価するシャープの尺度がふさわしいと思われる。
(ファクター・モデルとアクティブ運用の効用)
A厚生年金基金では、新規の投資計画を立案しており、株式のアクティブ運用を行うABCDEの5つの投資顧問会社から1つ採用する予定である。同基金では、投資運用の指針として、市場リスク(ベータ)はTOPIX並みとし、景気・金利・為替などマクロ経済に起因する投資環境に予期せぬ変化によってパフォーマンスが著しく影響を受けないようにすることとしている。
TOPIXの期待収益率5%、収益率の標準偏差20%安全資産利子率2%とする。ベータが1であってもアクティブ戦略の理由は、単に市場と連動するリスクが市場並みであることを示しているにすぎず、ファンドのポートフォリオはトータルリスクが市場リスクよりも高い場合、非システマティックリスクを負担したアクティブ戦略と判断される。
シャープ・レシオは、リスクフリー・レートに対する超過収益とポートフォリオのトータルリスクの比であるのに対し、インフォメーション・レシオは、ベンチマークに対する超過収益とポートフォリオのアクティブ・リスクの比である。
リスク回避的であれば、無差別曲線は急となり、リスク許容的であれば、緩やかになる。縦軸アルファ、横軸トラッキング・エラー
マクロ経済に起因する投資環境に影響を受けないように、マクロファクターの符号が逆となっているファンドを組み合わせることとなる。さらに、ベータについてもTOPIX並みとすることから、1より大きいファンドと1より小さいファンドを組み合わせることとなる。
その結果、単独のファンドの組み合わせの場合、相関係数が1の場合には、効用は単純にその比率によるものの(AファンドとBファンドの座標上の点を結ぶ直線上の点となる)、相関係数が1よりも小さい場合は、効用関数が1の場合を上回ることとなる。つまり座標上はより第1象限の方に移動することとなり、効用が大きくなる。
(パッシブ・プラスアルファ運用)
A基金は、掛金収入の一部を証券市場で運用し、将来の給付支出に備えている。国内ポートフォリオの運用を10社の運用機関に委託している。TOPIXを上回るアクティブ・リターンを求めている。年金コンサルタントの助言を受けて、マネージャー・ストラクチャーの再構築をすることとした。
具体的に、株式ポートフォリオのリスクを少し抑えた運用とし、ポートフォリオのコア部分をTOPIXをベンチマークとするインデックス・ポートフォリオでパッシブ運用する計画である。
A基金では、会計上の要請から、ある程度の実現益が必要であることから、評価益の銘柄を売却してきたため、ポートフォリオには評価損を抱えた銘柄が多くなっている。この問題を解決するために、ポートフォリオに配当利回りの高い銘柄を組み入れることとした。
さらに、年金コンサルタントからは、業種間の配当利回り格差に着目し、インデックス・ファンドでありながら高配当利回りを狙う運用方法として、エンハンスト・インデックス・ファンドを勧められている。
パッシブ運用は、運用コストが安いことがメリットであるものの、銘柄の入替えが必要となること、成長性の高い企業株式を組み入れられない。市場並みのリスクをとること。トラッキング・エラーが発生することがデメリットである。
配当利回りの高い銘柄は、高配当を維持できる可能性を財務諸表等から検証する必要があること、高配当利回りは株価水準にもよるが、企業の業績及び倒産の可能性を検証しなければならない。
高配当銘柄には低PBR銘柄が多いとのことであるが、低PBR銘柄のパフォーマンスが相対的に高いというアノマリーでありバリュー効果と呼ばれている。
株価が純資産価額に近く、将来性は高く評価されていない。
エンハンスト・インデックス・ファンドは、高配当利回りの業種への投資比率をインデックスと比べて高く、低配当利回りの業種への投資比率をインデックスと比べて低くし、その他の業種への投資比率をインデックス並みとするセクター・ティルト戦略である。
一般にエンハンスト・インデックス運用とは、ベンチマークのリスク・リターン特性を維持した上で、トラッキング・エラーを一定に抑えて、安定的に超過リターンを狙う運用手法である。
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