第234号 証券アナリスト 金融理論
(日銀の金融政策1)
毎月定額の国債買い切りオペは、経済の成長とともに、必要とされる貨幣量も比例的に増えるとする考えがある。毎月定額の買い切りは、毎月一定の貨幣量の拡大を意味し、その背景には、毎月、経済が一定率だけ拡大しているとする考えである。
なお、貨幣供給量の拡大が、経済成長の大きさを超えればインフレ(貨幣価値の下落)となる可能性が生じる。日銀が保有する長期国債残高は、銀行券発行残高を上限とする考えがある。これは、限度のない通貨発行を抑制し、過剰な貨幣供給による通貨下落を防止し、通貨価値の安定を確保するためである。
将来の物価経路について踏み込んだアナウンスをすることなく、物価水準のデフレ傾向が完全に払しょくされるまで超低金利政策を継続するという政策的コミットメントを行ってしまうと、インフレ期待を醸成するどころかかえってデフレ傾向を固定化してしまう。インフレ期待が生まれない結果、イールド・カーブはフラットになる。インフレになるという期待が生じると、その影響は、長期金利から織り込まれ、イールド・カーブは、右上がりの勾配が強くなる。
量的緩和によって期待される効果
1 金利の低下と貸出等への波及
2 日銀当座預金増加による融資・債権購入の積極化
3 為替レートが円安になること
銀行の貸出の減少が預金の減少を通じて貨幣乗数を低下させると、マネタリーベースが増加してもマネーサプライは増加しない。銀行が融資を増やせないのは、BISの信用リスク規制に基づくリスク資産の圧縮の必要性のためである。このほか、あらたな不良債権の発生によりリスクテイク能力が低下しているためである。
インフレ期待が生ずれば、消費を前倒しで行う可能性が生まれる。消費の拡大は期待成長率を高め、設備投資の拡大にも結び付く。また、インフレにより、政府債務残高が実質的に目減りすれば将来不安が除去される。
景気回復を伴う、いわゆる実需の拡大を伴うインフレの発生はよいとしても、国債の需給にもとづき国債価格が下落し、長めの国債金利から上昇するといった事態は、先行きのインフレを織り込んだものといえ、こうしたプロセスで生ずるインフレ懸念の発生と長期金利の上昇は、設備投資をより一層冷え込ませることを通じて経済を一層悪化させる可能性がある。
(日銀の金融政策2)
長期国債の買入れは、銀行券発行残高を上限とすると決められた理由は、長期国債の買入れに歯止めを設けることで、政府の財政需要を賄うための無制限の銀行券発行を抑え、通貨価値を安定させるためである。銀行券の無制限発行は、市場に急激なインフレに繋がるといったイメージがあり、これを予防するためである。
マネタリーベースが増加してもマネーサプライが増加しない理由は、銀行の貸出減少と各銀行の日銀に対する当座預金残高の増加のためである。これらはいずれも、貨幣乗数を低下させることを通じてマネーサプライの増加を抑制することに繋がる。
現金が選好されている理由は、低金利がペイオフの部分的な解禁による。通常、現金は流動性が最も高い資産として選好されており、低金利は流動性を犠牲にして預金を保有することの魅力を失わせている。また、ペイオフの解禁により、資産のリスクからの退避として現金が保有されていると考えられる。
金融政策が緩和基調で推移したとすれば、名目GDPが拡大することで貨幣の流通速度は上昇する。名目GDPの拡大は物価を上昇させることにつながり、これに基づくインフレ懸念の発生は金利の上昇をもたらす。また、金利の上昇は海外からの資金流入をもたらすことや景気拡大期待から円高になる。
(金融市場とマネーサプライ統計)
M1が減少しM3が増加する現象は、金利が上昇傾向にあったことから、長期預金へ資金がシフトしたと考えられる。しかしながら、基本的には低金利であると考えられる場合、金融に対する不安から一部は現金にシフトする。
さらに、広義流動性では、唯一の無リスク資産である国債の増加が考えられる。そうすると、上記のように預金外の項目に資金が流れると、金融機関の信用創造機能が阻害され貨幣乗数は低下すると考えられる。なお、貨幣乗数が低下するにつれてマーシャルのkは上昇する。マーシャルのk=マネーサプライ/GDPであるから。
そうすると、物価については、国債への資金シフトによる国債残高の増大は、財政規律の低下をイメージさせることとなり、また、マネーサプライは拡大を続けていることから、貨幣数量説に基づく理論的帰結により、円の価値の下落と物価の上昇をもたらすと考えられる。
(金融政策とマネー・サプライ)
金融政策の目標は、物価の安定を実現することを通じて、持続的な経済成長の基盤を確保することである。金融政策の目標達成にとって、マネー・サプライは、金融政策における最終目標(物価の安定)を達成するにあたっての、中間目標として位置付けられるものである。
金融政策を実施するうえで、マネー・サプライが上記の位置付けを得るための条件は、1 最終目標(物価)とマネー・サプライとのあいだの関係が安定的であること、2 短期市場金利や日銀当座残高といった金融調整上の操作目標の誘導によって、マネー・サプライの動きをコントロール可能であることである。
マネタリー・ターゲティングとは、マネー・サプライの伸び率を金融政策運営上のターゲットに据えて、その動きが物価の安定と整合的な範囲に収まるように操作変数を操作する金融政策運営方式のことである。
しかしながら、マネタリー・ターゲティングの前提条件のうち、マネー・サプライの操作可能性という条件が厳密に満たされていないため、採用している欧米主要中央銀行はない。そのため、欧米主要中央銀行は、金融政策における短期金利の操作を通じて実体経済などに影響を及ぼし、それらによって物価の安定を目指すと考えている。その背景には、物価は、短・中期的には、需給ギャップの変動に合わせて動くものであり、マネー・サプライから物価に直接影響を及ぼす経路は極めて弱いという考えがある。
わが国においては、近年、貨幣乗数が漸次継続して低下してきていることからみても、マネー・サプライと実体経済との関係は安定的ではなく、また、超金融緩和のもとでも、物価は近年継続してデフレ傾向であることから、マネー・サプライは有用な情報変数とはいえない。
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