第228号 証券アナリスト 投資政策とアセットアロケーション
投資政策の立案
個人投資家の投資政策
Aは、経営を退いて、保有資産がAが店頭公開させた企業の株式(時価5億円)、銀行定期10億円及び自宅(時価2億円)です。
海外に居住する息子夫婦と2人の孫に、年間1000万円程度の負担をしている。Aは、孫の大学進学負担もするつもりである。どのような投資政策をするべきか。
投資目的
キャッシュ・フローは、老後の生活費、息子家族の生活費、孫の教育資金であるため、元本を維持し、想定されるキャッシュ・フローをカバーする運用利回りが必要である。
そのため、ロー・リターン又はミドル・リターンの投資が適当であり、将来のドル資金の需要を考慮して資産の一部をドル資産で運用することも考慮する。
制約条件
資金の流動性ニーズは低く、必要なキャッシュ・フローはインカム・ゲインで賄う。投資期間は、孫の教育期間を考えると、10年程度であり、相続税に対する備えも必要である。
アセット・アロケーション案
元本を維持し、キャッシュ・フローを賄うために、株式の比率を下げ、日本及び米国の国債を組み入れることが適当である。これにより、円及びドルの安定的なキャッシュ・フローを維持することができる。
なお、流動性の要求が低いことから、短期資金の比率を下げても、国債の流動性が高いことから急な出費にも応えることができる。
(投資家の効用関数とアセット・アロケーション)
市場ポートフォリオの投資割合をXとすると、安全資産への投資割合は(1-X)となる。市場ポートフォリオの期待収益率E(Rm)が12%、安全資産利子率Rfが2%とすると、ポートフォリオの期待収益率E(Rp)=XE(Rm)+(1-X)Rf=0.12X+0.02(1-X)=0.1X+0.02となる。
また、市場ポートフォリオの標準偏差が20%とすると、ポートフォリオの標準偏差は、0.2Xとなり、これを投資家の効用関数U=E(Rp)-ポートフォリオの分散/投資家のリスク許容度に代入すると。
今、投資家のリスク許容度が0.5とすると、U=0.1X+0.02-0.04Xの二乗/0.5となり、投資家の効用を最大にするXの値は、効用関数をXで微分して0と置けば、dU/dX=-0.16X+0.1=0で、X=0.625となる。
したがって、市場ポートフォリオ62.5%、安全資産37.5%のアロケーションとなる。リスクとリターンのトレードオフの下で、投資家が資産運用で得られる効用を最大化する投資案を選択するというのが、戦略的アセット・アロケーション(SAA)の考え方です。
今、市場ポートフォリオの期待収益率が変化せず、リスクのみが高まると予想する場合、リスク回避的な投資家にとって、市場ポート・フォリオはリスク・リターン平面上で右にシフトすることにより、最適ポートフォリオも右に変化することとなる。そうすると、無差別曲線の変化によって、新たな最適ポートフォリオでは、市場ポートフォリオの投資割合が減少することとなる。
(アセット・アロケーション戦略)
米国証券ファンドを運用しているW社は、いままで米国株に75%、米国債に25%で平均10%を超えるリターンを上げてきた。しかし、今後は、米国株に弱気の予想を立てている。
W社の投資政策を立案するに当たっての、投資目的として考慮すべきものはなにか。
W社にとって必要とする収益率と許容リスクを明確にしないといけない。目標とするリスクとリターンの中で、最適な資産配分を決定する。
制約条件としては、①流動性、②投資期間、③規制、④税金、⑤固有のニーズ、これを踏まえて投資政を決定し、それに基づいて投資行動を起こすこととなる。
戦略的アセット・アロケーションと戦術的アセット・アロケーションの違いはなにか。
戦略的アセット・アロケーションとは、投資家のリスク許容度に従って、長期的な資産構成を決定するプロセスであり、投資家の投資目的が変化すれば見直しを行う。3年あるいはそれ以上変更はしない。
戦術的アセット・アロケーションとは、市況の変化に応じて、短期的に資産構成(アセット・ミックス)を変更する運用戦術であり、市場の非効率性を前提とした運用手法である。
W社の場合、投資環境の変化によって定期的な見直しを行い、株式と債券の比率を入れ替える戦略を考えていることから、戦術的アセット・アロケーションを行うべきである。
コンスタント・ミックス戦略とは、一定の資産構成比率を維持する戦略であり、定期的にリバランスを行う。たとえば、株式が上昇すれば株式の比率が当初に決定された比率になるように売却され、下落すれば維持するように買い増しされる。
結局、この戦略は逆張り戦略であり、買い持ち(バイ・アンド・ホールド)戦略(ポートフォリオの価値と株式資産の価値が一定)と比べて凹型の損益曲線を描くことから凹型戦略(株式資産の価値が減少する)と言われる。
CPPI(コンスタント・プロポーショナル・ポートフォリオ・インシュランス)とは、ポートフォリオ・インシュランスの一つであり、事前に設定されたフロアを一定の計算式によって維持する運用戦略である。ポートフォリオの資産総額からフロアを控除した金額をクッションといい、クッションに一定の乗数を掛けた額が株式等のリスク資産に投資される。株式が上昇すればクッションの額が大きくなることから株式への投資を増やし、下落すれば比率を下げる。結局CPPIは順張り戦略であり、買い持ち(バイ・アンド・ホールド)戦略と比べて凸型の損益曲線を描くことから凸型戦略(株式資産の価値が増加する)と言われる。
(戦略的アセット・アロケーション)
A外債(ヘッジなし) ポートフォリオの標準偏差が中くらいに組み入れ比率が大きい
B外債(ヘッジ付き) ポートフォリオの標準偏差が小さい時に組み入れ比率が大きい
C外国株(ヘッジ付き)ポートフォリオの標準偏差が大きい時に組み入れ比率が大きい
D日本株 標準偏差が高いため、組み入れ比率が小さい
外国株ファンドCに比べて日本株ファンドDの方がリスクが高く、期待収益率が低いにも関わらず効率的フロンティア上のポートフォリオに組み込まれる理由はなにか。
日本株ファンドDの方が外国株ファンドCに比べて外債ファンドABとの相関係数が低いため、ポートフォリオのリスク分散効果に寄与している。
外債ファンドAだけを有している顧客に対しては、同じリスク水準で、より高い期待収益率をもつポートフォリオだけでなく、リスクが小さいポートフォリオの提案も考えられる。この場合、外債ファンドAに比べてシャープ・レシオを比較することができる。
(景気動向と投資判断)
ポートフォリオの効率的フロンティアを作成する場合、縦軸に期待リターン、横軸に標準偏差を持って来て図示することができる。この図の作成において、期間を全期間とするものと、景気拡大期及び景気後退期のみのデータで作成することもできる。
まず、株式のリターンは、景気拡大期には企業業績の向上による収益の上昇期待から株価が上昇し、景気の後退期には低迷予想から株価が下落する。
逆に、景気の拡大期には金利の上昇により債券価格が下落することから債権リターンは低下するし、景気の後退期には金利の低下により債券価格が上昇することから、債券リターンは上昇する。
なお、長期国債のリスクは中期国債のリスクよりも高いのは、デュレーションが長い分、金利変動リスクが大きいからである。
フィッシャー関係式とは、実質利子率は名目利子率から期待物価上昇分を引いたものである。たとえば、1970年代以降スタグフレーションにあった米国経済は、景気後退期にありながら名目金利が高かった。その後の積極的な設備投資や研究開発費により90年代に入り景気回復を果たしたが、物価水準が安定的であったため、名目金は上昇しなかった。
したがって、景気の後退期には金利の低下があるのだが、短期金融資産のリターンは景気後退期には高く、景気拡大期には低かったと推定される。景気拡大期には、安定資産である債券への配分が低く、さらに長期債のパフォーマンス、つまり、リスクが大きくリターンが見合わないため、配分は低い。逆に、景気後退期には株式等のパフォーマンスが悪いことからこれらの配分は低い。
通常は、リスク水準の違いに応じてさまざまな資産クラスの組み合わせが現れるところであるが、景気後退期の効率的フロンティアでは、景気拡大期に比べて、リスク水準にかかわらず、国債等に配分が集中する傾向がある。このため、リスク分散効果が働かず、資産間の相関係数は高いと判断される。
タクティカル・アセット・アロケーション戦略とは、景気拡大期、景気後退期を区別して資産配分比率を景気循環に応じて動かすこと。しかしながら、留意点としては、景気判断のための指標を明確にしなければならず、過去のリスク・リターンの実績は将来を予測するものではないことから、過去の分析結果をそのまま利用することには留意する必要がある。さらに、景気判断を誤ると、必要以上にリスクを取ることになること。
アセットクラスが多くなると統計的誤差及び最適化による誤差が大きくなること。物価変動分を除いた実質的リターンが考慮されていないこと。長期的な分析結果とTAAが必ずしも整合的でないことがあげられる。
(年金のサープラス・アプローチ)
サープラス・マネジメントとは、資産側のリスクとリターンを管理するのではなく、年金資産の時価から年金債務の時価を引いた年金サープラスのリスクとリターンを管理する手法。
基金の期首における資産時価と債務時価それぞれ、A0、L0とし、期末における資産時価と債務時価をそれぞれ、A1とL1とすると、資産のリターンRAは(A1―A0)/A0で定義される。年金債務のリターンも同様にRLは(L1-L0)/L0で定義される。
また、期首のサープラスS0はA0-L0 、期末のサープラスS1は、A1-L1となり、今期のサープラスのリターンRSは(S1-S0)/L0と定義する。この時の基金の積立比率FはA0/L0とするとき、RSは、F・RA-RLと表される。
また、将来の年金債務つまり累積給付債務(ABO)は、現時点のABOは確定しているので、債券のショート・ポジションとみることができる。
まず、将来の支出である年金給付を予定利率で割り引いた現在価値である給付原価と、将来の収入である掛金を予定利率で割り引いた現在価値である収入原価との差額が責任準備金(年金資産)である。したがって、年金資産運用では長期的に予定利率以上のリターンを上げなければ収支バランスが崩れてしまう。低金利時には年金債務は大きな値となる。
アセット・アプローチ又はサープラス・アプローチを用いた場合における最適なアセット・ミックスにどのような違いが生じるか。
アセット・アプローチでは、年金債務とは無関係に運用資産のリターンとリスクから最適アセット・ミックスが選択されるが、サープラス・アプローチでは、運用資産と年金債務の関係から最適アセット・ミックスが決定され、運用資産と年金債務の相関係数次第でアセット・アプローチとは異なる結果となる。
また、厚生年金基金の資産運用にあたって、リスク許容度を決定する最大の要因は、年金の成熟度である。年金制度発足間もない期間には掛金収入に対する給付額の比率が小さいため積立金は増加するが、時間の経過とともに給付額は次第に増加し、積立金の伸びは鈍化する。
その後、ある年数に達すると給付額が一定水準となり、積立金も一定水準に保たれる。この状態は一般に年金制度の成熟と呼ばれる。すなわち、年金が成熟した状態では、給付額は、掛金収入と運用収入の合計額と一致することとなる。
年金の積立金運用に当たっては、制度の成熟度によって許容できるリスクの大きさが異なる。成熟度が低い年金プランは比較的大きなリスクがとれるが、成熟した年金の許容リスクは小さいと考えられる。
年金数理では、加入者の退職時点での予測給与水準と現在までの勤務年数に応じた支払債務の現在価値を予測給付債務PBOという。
累積給付債務ABOとの違いにより最適なアセット・ミックスにどのようない違いが生じるか。
PBOで捉えた年金債務は、将来の給与上昇率及びそれに伴う給付額の増加を考慮したことになる。将来の給与は景気動向、企業業績、インフレ率に左右されるため、長期的にはマクロ経済変数と相関が高い株式のウエイトが増加すると考えられる。
PBOは、在職者と受給者・受給待機者について、将来の勤務を考慮して算出した給付額のうち、給付が給与比例制の場合、退職時までの昇給を織り込んでいる。
ABOは、受給資格に関係なく、受給者・受給待機者及びすべての在職者について将来の勤務を考慮して算出した給付額のうち、決算時点までの勤続期間と基準給与に基づいて計算した給付の現価であり、PBOのうち将来の昇給分を見込まない債務ともいえる。したがって、給付が定額制の場合には、ABOとPBOは一致する。
(年金ポートフォリオ)
金利の変化に対する資産・負債の額への影響は、修正デュレーションが大きい方が大きくなる。そのため、サープラスがプラスであったとしても、負債の修正デュレーションが資産の修正デュレーションよりも大きい場合は、金利が低下すればサープラスが減少することとなる。
そうすると、サープラスの変化率は、資産・負債の金額にそれぞれ修正デュレーションを乗じた金額(金額デュレーション)の差額に金利の変化率を乗じた金額となるから、この金額が当初のサープラスの金額と一致する金利の低下率となるため、当該金利の変化率以上の金利の低下が生じた場合にサープラスが減少することとなる。
また、そうすると、年金債務の金額デュレーションと一致させるように、資産の構成(アセット・アロケーション)を変えずに、債券運用の中身を変えることによりデュレーションを調節して、年金債務に対するサープラスの比率の変動を最小にすることができる。
また、株式を全部売却して、全資産を債券に投資するとした場合にも、債券の金額デュレーションと年金債務の金額デュレーションを一致させる債券のデュレーションを算出することができる。
現在のサープラスとサープラスの期待値の差をサープラスの標準偏差で割ったものを下回る確率(面積)が、サープラスがマイナスになる確率に等しくなる。この確率を標準正規分布表に当てはめて算出する。
(年金運用マネージャー選択)
A厚生年金基金では、政策アセット・ミックス及び各資産クラスへの配分の比率の上限・下限を定めている。また、各資産クラスの時価が許容範囲を超えないように管理している。
株式運用において、運用スタイル間でパフォーマンスに大きな差異が生じることがあり、これを回避するためにもスタイル分散は不可欠である。なお、パッシブ運用はスタイル管理から除外される。
スタイル運用とは、株式運用をバリュー、グロース、大型、小型というサブクラスに分けて運用管理する手法であり、運用スタイルの分散によってアクティブ・リターンを低下させることなくリスク(トラッキング・エラー)を低減させる効果がある。
これは結局、一定の資産構成を維持するコンスタント・ミックス戦略を実行していることとなる。この戦略を維持するためには、基金のリスク許容度が一定であること、資産クラスごとのリターンとリスクが一定であり、資産クラス間の相関係数が変化しないことが仮定されている。
日本の年金基金におけるバランス型マネージャーの比率は高く、以前は5・3・3・2規制と呼ばれる、年金の受託運用機関ごとに、安全資産5割以上、株式3割以下、外貨資産3割以下、不動産2割以下の範囲での運用を求められ、特化型運用の道が閉ざされていた。
バランス型マネージャーを採用することは、①政策アセット・ミックスを維持することが容易であり、②特化型運用に比べて運用コストが低く、③運用管理が特化型に比べて容易であるというメリットがある。
しかしながら、多数のバランス型マネージャーを採用することは、類似した運用を行う運用機関に委託した場合、相場観の違いなどにより、同じ資産で反対方向の売買が行われ、基金全体の資産構成が変化しないにも関わらずコストだけが発生するという問題が生じるなど運用効率の低下をもたらすこととなる。
そうすると、ある資産クラスについて、特化型マネージャーとバランス型マネージャーを使用する場合、両者の比率を考える上で、①アクティブ・マネージャーの運用能力、②基金の成熟度に応じたリスク許容度、③両者の運用コスト、④運用資産の規模、⑤市場の効率性の度合いが重要となる。
(アセット・アロケーションと系列相関)
効用の時間変化に伴って期待効用が増加している場合、リスク資産とリスクフリー資産への投資の有利・不利は、期待効用がより大きい資産を選択して投資する考え方に基づいている。このような考え方を期待効用最大化原理という。
株式ポートフォリが50%の確率で上昇するか下落すれば、上昇後には下落し、下落後には上昇する場合が多くなることから、資産価値の変化には平均回帰があると言える。そうすると、平均回帰(負の相関)がある場合には、投資期間が長いほどリターンの変動(リスク)が相殺される度合いが高くなる。
株式のようにハイリスク・ハイリターンの資産では、負の系列相関があれば、長期に保有するほどリターンの増加と比べてリスクは相対的に低下する。そうすると、投資期間とアセット・アロケーションの関係は、年金基金のように長期の債務を抱えている場合には、債務額の支払い時点に合わせた資産構成が求められる。したがって、債務額を下回る確率が小さい長期投資資産のウエイトを高める必要がある。
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