第418号 贈与による財産取得の時期
贈与による財産取得の時期 租税判例百選(第7版)(名古屋高裁平成10年12月25日判決)
事実の概要
AとXは、AがXに対して昭和60年3月14日付けで本件不動産を贈与して引き渡し、Xからの請求がありしだい、本件不動産の所有権移転登記をしなければならない旨の公正証書を作成した。
それから8年9カ月後の平成5年12月13日にXは、本件不動産について、所有権移転登記を受けた。
税務署長は、Xの平成5年分の贈与税の決定処分を行った。
そこで、Xは、Aとの間で本件不動産を直ちに贈与する公正証書を作成しており、また移転登記は法的に義務づけられておらず、登記手続を直ちにしなかったことにも理由があったなどと主張した。
税務署長は、これに対して、公正証書を作成する必要性はなく、8年以上も登記をしなかった合理的な理由もないことから、公正証書は税負担を免れるための方策として作成したにすぎず、本件不動産の贈与は平成5年12月13日であると主張した。
判決 控訴棄却(X敗訴)
1 本件贈与に登記のみでは明らかにできない契約内容は認められないこと。
2 登記をできなかったことが伺わせる事情も認められなかったこと。
3 公正証書を作成する合理的な必要性はなかったと認められること。
4 X自身は本件不動産に対する従前からの使用状態を継続しており、固定資産税等の支払が、贈与によりXの所有になったことの表れであるということはできないこと。
5 Aに公正証書の記載通りに本件不動産を贈与する意思はなかったものと認められること。
6 Xにおいても公正証書作成時に贈与を受けたという認識は有していなかったものと認められること。
そうすると、本件不動産を贈与したのは、書面によらない贈与によるものとなる。そうすると、書面によらない贈与の場合はその履行の時に贈与による財産取得があったと見るべきである。
贈与による財産取得の時期
贈与契約は、贈与者の意思表示を受贈者が受託する両者の意思の合致によって成立する。しかし、意思の合致を客観的に判断することは大変困難である。
口頭による贈与の財産取得時期
京都地裁判決昭和52年12月16日で、口頭による不動産贈与契約の成立後に長期間経過して登記を行った事案について、贈与は特段の行為なくして財産移転の効力を生じ、租税法上「取得」の概念に関する定義もないことなどから、贈与契約成立時を「取得の時」としたことに対して、控訴審である大阪高裁判決昭和54年7月19日で、書面によらない贈与は履行が完了するまで取得(解約)できることから、財産が確定的に移動するのは履行の終了時であると判断した。
書面による贈与の財産取得時期
本判決は、公正証書による贈与の契約の成立を否定し、本件贈与を書面によらない贈与と認定したうえで、登記時まで履行がなかったものとして、本件不動産の取得時期を登記時と判断した。
つまり、公正証書の作成を仮装行為ないし虚偽表示と認定いたものといえる。
評価
本判決は、公正証書作成時には贈与の意思はなく、登記時に贈与あったものとしている。そのため、登記を遅らせる理由が合理的理由がないという事実認定のみによって、私法上の贈与の意思を否定する法的根拠がないという指摘がある。
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